佐久「がん哲学外来の歴史」 ~その2~ 

 佐久「がん哲学外来の歴史」 ~その2~ 

  

「第1回佐久がん哲学外来研修会&交流会」は2009年9月5日~6日に佐久クアハウスで開催された。以下のメッセージは基調講演をお願いした樋野先生から寄せられたものである。

「佐久のみなさま、こんにちは。この度、農村医療・予防医療で大変有名な信州佐久の地で、このような医療従事者、患者様、地域の皆様とともに「がん哲学外来研修会」を開催することができますことを、まず感謝申し上げます。また佐久医師会より工藤猛会長、小松裕和医師をはじめ、佐久熱気球クラブの皆様、地域の皆様の多くのご協力をいただき「がん哲学外来研修会」が実現できますことは、佐久の方々の医療に対する志の高さがあってこそと感動するとともに、心より感謝を申し述べたい次第です。昨年、順天堂大学で試験的に「がん哲学外来」を実施いたしました。これには大きな反響があり、その後、東京、千葉、横浜、地方へと「がん哲学外来」は広がりを見せています。「がん哲学外来」はカルテなどを書かずに、診療行為ではなく、患者と医師が同じ目線で、お茶を飲みながら人生を語るという人と人とのコミュニケーションが基盤にある「対話の場」です。「暇げな風貌」を持ち、「偉大なるお節介」が焼ける人、身の周りで誰かが困った時に力を貸せる人ならば、誰でも「がん哲学外来」を始めることができます。自分の「命」に対して、また隣人の「命」に対して何ができるのか、9月5日から6日にかけて行われる「がん哲学外来研修会」にご参加の皆さまが、研修・体験・講演・交流会の中で、何か感ずるもの掴めるものがあれば幸いです。そして最後まで有意義な時間をご一緒に過ごすことができれば、と願っております」。

「西も東も分からない」という喩えがある。また、五里霧中という言葉もある。樋野先生との運命的な出会いがあったのは2009年5月9日だが、その4か月後に有志4人(片桐孝子・小室清子・小林久子・星野昭江)で開催したのが「第1回佐久がん哲学外来研修会&交流会」であった。この研修会イベントのモデルはどこにも無かったし、お金もなかった。「有った」のは、心やさしい人の輪と佐久の地に根付いていた民主的な医学の伝統、そして住民に対する医療者たちの温かい眼差しだった。また、第1回研修会の開催を呼びかけた片桐さんの存在も大きかった。彼女は佐久市前山に建てられていた健康増進施設「クアハウス佐久」の二代目オーナーだった。この施設のホールでは100人ほどの研修会が開催できたし、温泉にも入れて、食事会や宿泊もできた。

取り敢えずプログラムを組んでみようと検討会を何度か開いた。いきなり「がん哲学外来」と銘打っては地元の人たちが戸惑うに違いない。がん哲学外来の「がん」にこだわって敬遠されても困るし…、悩みは尽きなかった。無い知恵を絞りアイディアを練って、考えて考えて…、ありったけの想像力を働かせた。

ふっとあるイメージが浮かんできた。熱気球である。カラフルな機体でどこまでも自由に空を飛んでいくバルーン。そのパイロットのAさんのニコニコ顔が浮かんできた。私はいなか暮らしをしてすぐに小さな家を建てた。その建築設計でお世話になったのが沖縄人のAさんで、彼は熱気球のパイロットだと名乗り、私は何度も熱気球搭乗体験をさせてもらった。広々とした青空を飛んでいくときのあの快さ、感動…。病気やがんに罹って気持ちが塞いでいる人たちにせめて一刻でも空から地上を俯瞰して心を開放してもらいたい。Aさんに応援を頼むと即オーケーを出してくれて研修会のプログラム構成に弾みがついた。地元の佐久病院のドクターにも講演をお願いしてシンポジウムも企画することが出来たのである。以下はそのプログラムである。

「第1回 佐久がん哲学外来研修会&交流会」プログラム

1日目 9月5日(土)

17:00~18:30 ようこそ!ジョイフライト (熱気球体験搭乗)

19:00~21:00 信州の田舎料理でほのぼの夕食会(クアハウス大広間)

2日目 9月6日(日)

6:30~9:30 おはよう!ジョイフライト(熱気球体験搭乗・アウトドアさわやか朝食会)

9:30~12:00 フリータイム (温泉でのバーデゾーン体験・貞祥寺森林浴・散策etc)

10:30~11:50 宇宙を描こう!(サンドアート)     アーティスト 石田恵美

12:50~13:50 クリスタルボウル&ギターコンサート   KAJI 梶谷正治

14:00~16:30 がん哲学外来シンポジウム

・基調請演「がん(病)」から「生」を読み取る」 順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授  樋野興夫先生

・特別請演「地域医療の現場から~佐久地域での地域ケア活動~」 佐久病院地域ケア科  小松裕和先生

◇ シンポジウム

パネリストは 樋野興夫先生×小松裕和先生×横山孝子(佐久大学看護学部)講師

×小室清子(佐久心理カウンセリングルーム)臨床心理士×患者家族の代表

樋野先生は奥さんのジーンさんと一緒にクアハウス佐久を訪問された。熱気球搭乗は高所恐怖症だからと敬遠され、ジーンさんだけが楽しんでくださった。宿泊した人たちの朝食は千曲川の河原に運んだ。サンドアートという不思議な絵画制作体験、クリスタルボウルの神秘的な音楽の癒やし、水着でのバーデゾーン温泉浴、最後にメインの「がん哲学外来シンポジウム」と盛りだくさんのスケジュールが展開された。

地元の人たち、参加者は80人ほどだったと思う。樋野先生のスライド説明による講演を聴いていたときのこと、高齢の女性が「今の話、分かったかい」と問いかけたら隣りの老女が「オラ、難しくて何が何だか…」と答えていた。実は私も樋野先生のご講演内容が何ひとつ理解出来なかったのである。

私たち4人はこのイベントを立ち上げたときに「健康工房SAKU」とグループ名をつけて、その趣意書まで作製していた。そこに「互いの健康や命の尊さを思いやりあえる地域づくりを目指し、様々な分野の人々との架け橋になる」と宣言はしたものの、果たしてどれほどの架け橋になれたのやら、どうも心許ない気持ちになった。それで次回の「第2回佐久がん哲学外来研修会&交流会」をさらに良いものにしなくてはという決意を固めたのである。

健康工房SAKU「趣意書」

「この世に生を受けた人ならば、誰もが、病気にならずに健康で長く生きたいと思っています。が、多くの人は病と向き合わざるを得ず、特に齢を重ねればその現実は深刻さを増していきます。一方で病気や老いは真剣に自分の心身の健康、さらには『命』を見つめ直す契機となります。心と体の健康再構築…、真の健康づくりはここから始まると私たちは考えます。その人に合った健康法を一緒に見つけることで生きる力が最大限に引き出されること、さらには互いの健康や命の尊さを思いやりあえる地域づくりを目指し様々な分野の人々との架け橋になるために『健康工房SAKU』を立ち上げました」